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2017年 06月 23日

恋するライカ8


凜々花の結婚宣言は美しい調べであった。
だけど僕は知っている。アイドル一人を愛することの苦しさを・・・


「何見てんの?」

背後から賀奈子が絡みついて、風呂上がりの火照った頬を寄せた。
しまった。耳からイヤホンを引き抜いてスマホを伏せたけれど遅かった。

「AKBじゃん」賀奈子はiPhoneを引ったくり、漆喰の壁に叩きつけた。
フローリングに滑る長方体を尻目に、彼女は「死ね」と言い落として寝室へ消えた。


工藤賀奈子はご当地アイドルグループ「HH365」の一員だった。

中でも一番人気。小柄で清楚な顔立ち、サイドポニーテール。
星の弾けるような笑顔の正統派美少女で、クッカーと呼ばれて愛されていた。

当時の僕は有名無名問わずあらゆるアイドルをチェックしていたので
時間の許す限り気になるライブに駆けつけていた。
学生の頃は自由な時間があったけれど、就職後もその情熱は変わらない。
土日を費やして顔を出し、給料は全てグッズに注いだ。

そんなアイドル中心の生活は僕の青春だった。
顔見知りの仲間も増えて、情報交換や場所取りを繰り返すうちに団結。
アイドルたちとの交流、オタクたちとの絆。
そんな環境に幸せを感じ得ていた日々。

しかし、HH365の撮影会で僕の人生は変わった―

フラッシュとシャッター音の連弾の中、ライカM2を構えてピントリングを
調整している僕に対して、あの工藤賀奈子が声を掛けてきたのだ。

「ライカ、わたしも好き!」

父親がライカを所有しており、よく撮られていたらしい。
人気アイドルが、まさかのライカ好き。
一眼レフが並ぶ中、ライカを小さく構える僕の姿は逆に目立っていたのかもしれない。
翌日、彼女のTwitterへ写真を送ってあげると
「お気に入り☆」そんなコメントが返ってきて有頂天になった。


「今度2人で話しませんか?」

TwitterにDMが届いた。送り主は工藤賀奈子。
コメントに返信することはあっても、アイドルが個人にDMすることはあり得ない。
何かの間違いか、オタク仲間の手の込んだいたずらだと疑った。
しかし、握手会で「DMしちゃった」と賀奈子にささやかれて本人の確信を得た。

その後の展開は夢のようだった。
数回やり取りした後、こっそり会い「一目惚れした」と告白を受けた。
ライカを構えている姿が忘れられなかったという。
こんな奇跡があっていいのだろうか。断る理由はない。
僕とアイドルとの交際がはじまり、秘密のデートを重ねた。
表向きは恋愛禁止のアイドル。もちろん誰にも言ってはいけない。
自然、オタク仲間たちと距離を置くようになったし
ライブに顔を出すこともなくなった。

そんな交際をはじめてから1年後。
僕は彼女の親に呼び出されて伝えられた。「娘が妊娠している」
そんな予感がしていた僕は結婚しますと即答。
彼女は事務所と揉めた末「体調不良」を掲げてHH365を脱退した。

ライカがきっかけで彼女は僕の人生の伴侶となったのだ。


壊れたiPhoneを拾いながら、その後の日々を思い返す。
そんな事由だから、オタク仲間に紹介も自慢することもできないし
地元を2人で歩くことも難しかった。見つかったら大変なことになる。
そして僕は他のアイドルのライブに行くことも、動画を見ることも禁止された。
また、彼女以外の写真を撮ることは許されなかった。
僕は彼女以外見てはいけなかった。彼女だけの生活となった。

ただアイドルたちの動向はこっそりスマホでチェックしていた。
先日ニュースで見た凜々花の結婚宣言は、どうしてもスピーチが聞きたくて
彼女の風呂タイムを狙って動画を見た。それがいけなかったのだ。

寝室の彼女に「ごめん」と言葉を置いて横に潜る。

これでよかったのだろうか。
生き甲斐だったオタク活動と仲間を損ない、写真の自由を失い・・・
僕は一人の元アイドルを得た。

僕が見ていたのは ”アイドル” という肩書で
彼女が陶酔したのは ”ライカ” というブランドだったのかもしれない。


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時事ネタ(;^_^A
もちろん今回も妄想100パーセントでお届け。

他の恋するライカシリーズと、短編小説は「小説」カテゴリから。
よかったらぜひm(__)m


by harurei | 2017-06-23 12:02 | 小説 | Comments(10)
Commented by aki-carvinglover at 2017-06-23 12:39
明日は上映会w
Commented by chocoyan2 at 2017-06-23 13:37
まじか!
楽しみじゃ( ´艸`)
Commented by lily1406 at 2017-06-23 17:38
上映会は夜?
あーん 私見れないじゃんw

相変らず素晴らしい情景描写(^_-)☆
Commented by harurei at 2017-06-23 19:06
>あきさ、ちょこさ
公演してくれるの?(ぉ
箱オタ芸で盛り上げてくれるはず!

>ともさ
一緒にやってほしかったのに~
素晴らしいと言ってくれてありがとう(^O^)
Commented by yu_r_ho at 2017-06-23 19:24
最初は秘密のデートが楽しかっただろうに・・・
なんだか切ない(T-T)
妄想とは分かっていながら感情移入してしまいましたw
やっぱりharuさん小説書くの上手いですね(*^^*)
Commented by harurei at 2017-06-23 21:20
>ゆうほさ
感情移入してもらえて嬉しい!
こういう小説書くとたまに誤解されるのだけど・・・
わしはアイドルにまったく詳しくないしオタク力ない~
あくまで小説上の設定さね。ポニーテール好きは否定しない(ぉ
Commented by moco-mo-coco at 2017-06-23 22:01
haruさん こんばんは♪

haruさんの小説はほんとすごいなぁ^^
本当の話かと思って読んで後から小説なんだーってw
上映会いいなぁ^^
私は上映会のお話を写真とともに楽しみにしてまーす♪
いーーーーーっぱい楽しんできてくださいね*^o^*
Commented by harurei at 2017-06-23 22:14
>もこさ
えへへ、本当の話と思ってもらえて嬉しい(^.^)
オフレポートに備えて文章感覚取り戻したくて書いたよ!
写真もがんばるw
Commented by pote-sala at 2017-06-23 22:55
寛一とお宮だな・・(ー▽ー)
Commented by harurei at 2017-06-23 23:33
>ぽてさ
おぉ、男女逆かもだけど世界観が近そうw
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