2017年 10月 07日

恋するライカ9


C'est une belle camer.

何度反芻しただろう・・・
この歳になると、コンパクトミラーを覗かなくても自分の表情くらい感覚でわかる。
肌は張りを保っているし、血行も悪くない。
帽子の角度を定位置に。意を決して立ち上がるー


パリ滞在3日目。
エッフェル塔に程近いカフェに落ち着いた私は今後の予定を確認していた。
プラハ行き便の搭乗時間にはまだ余裕がある。
界隈を寄り道して撮影を続けても問題なさそうだ。

雨のパリはいい。
街ゆく男女が絵のように、浮かび霞んで溶けていく。
路肩に佇む Peugeot の濡れた躯体に映り込む街の色。

ふと、私の斜め前の席に男がついた。
肩に提げていたカメラをテーブルに置き、椅子を引いて長身を沈ませる。
紺青色のブルゾンに細身のスラックス。
望む横顔に深い人生を経てきた皺が刻まれている。

空いている店内。
わざわざ私の近くに座るなんて・・・少し気になるわね。

テーブルに置かれたカメラを見ると、レトロ調の蛇腹式カメラ。
遠目から見ても細部まで磨かれているのがわかり、愛着を感じさせる。
フィルムカメラかな。背面に液晶モニタがついていない。

私の手元にあるPEN-F。
きっと彼はこれを見て、私がカメラ好きだと気づいたのだ。
そして、自慢のカメラを見てもらいたくて私の前に位置取りしたのでは。

注文を終えて、スマートフォンを人差し指で手繰っている彼。
たどたどしさが愛らしい。私と近い世代かもしれない。

話しかけてみようかしら。
フィルムカメラは詳しくないけれど、カメラ全般のことならわかる。
もしかしたら彼と友達になって、他のカメラも見る?的な流れとなって
家に行って見せてもらい・・・勢い仲良くなって結婚したりして。

C'est une belle camera.(素敵なカメラですね)

声をかける言葉をiPhoneで翻訳してみた。
この一言が結婚につながるのだとしたら・・・

長い足を組み、せり立っている彼の背中。
優しくて穏やかで、でも頼ることができそうな山肌。
乙女のように鼓動が早鐘を鳴らしはじめた。
私のiPhone、彼の背中、蛇腹カメラ、繰り返し目線を流し込む。

話しかけよう。
私は意を決して立ち上がった。

「C'est une belle camer 」

声をかけると、彼の固い表情が一瞬で笑顔に塗り替えられた。
手を叩いて、自分が褒められたように大喜び。
私を席に呼び込んで、カメラについて熱く語り始めた。
神を鎮めるように彼の勢いを制して、ゆっくり話してほしいとお願いする。
彼は柔らかいウインクで応えて(粋だわ)私にもわかるように
丁寧に単語をつなげてくれた。

わかったことは、蛇腹カメラは古いフィルムカメラを改造したもので
デジタルカメラにした特注品ということ。
(ボディをくり抜いて中にデジタルの基板やセンサーを入れている)

そして彼は新旧含めて100台以上のカメラを所有しており(!)
家で大切に保管しているらしい。びっくり。

「家近いんだ。もし興味あったらカメラ見に来る?」

あまりにも妄想通りの展開で頬が緩む。信じられない。
見たいと伝えると、彼は会計を済ませて(私の分まで!)カフェを出た。

雨のパリ。傘を連ねて彼の大きな背中についていく。
墨を塗り重ねたような暗い空が連綿と続いている。

「こういう天候を日本語でなんて言うんだい?」

「どすっとグレーの空と言うわ」

「覚えておこう」

歩きながら、次第に自分の感情も不安で曇ってきた。
どんな家なのか。家族はいるのだろうか。あまりに軽率ではなかったか。

「あの、奥さんが困るんじゃないかしら・・・」

「あぁ、きっと嫉妬するだろうね」

素敵な人だもの。もちろんいるよね。私はうなだれた。

「・・・やっぱり行くの止めるわ」

「嫉妬するのは僕のカメラたちだよ」

彼は今度は瞬くようにウインクした。

「彼女のように愛情を注いで大事にしてきたから」

「じゃあ奥さんは?」

「いないよ」

それなら・・・

「最高のカメラを探す旅をしていた。でも旅は今日で終わり。なぜなら」

彼は足を止めて、振り向いて、私の目を射貫いて、ゆっくりと言った。

「カメラよりも美しい存在を・・・君を見つけたから」

本来なら今頃シャルル・ド・ゴール空港へ向かっていたはずなのに。
曇天のグルネル通り、濡れたマロニエの落葉、全てが明るく眩しい。
大好きなこの都市で、私の新しい人生がはじまろうとしていた。




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某じゃすさのブログ記事とコメントからヒントを得て小説にしたった。
もちろん許可は取っていない(ぉ

もし声をかけていたら・・・
そんな悔いがあったらこれで昇華するしか(できないか)
某ゆうほさがいつも感情移入してくれるので、たまには良い終わり方で(^.^)

今までの恋するライカシリーズや他の短編小説は「小説」カテゴリにて。
よかったらぜひm(__)mミテネ



by harurei | 2017-10-07 19:55 | 小説 | Comments(16)
Commented by pote-sala at 2017-10-07 20:08
BGMは是非フレンチタンゴで♪
Commented by harurei at 2017-10-07 20:19
>ぽてさ
採用(ぉ
Commented by aki-carvinglover at 2017-10-07 20:35
どすっとグレーは猿島でも語録として出てきて台風の空にぴったりだったよ。

jasさん帰ってくるよね〜?
心配だわ!
次はゆうほさんの番かな?(ワクワク)
Commented by harurei at 2017-10-07 21:33
>あきさ
その話を聞いていたので強引に取り入れてみた(^-^;
どこで出会いがあるかわからないからね!
ゆうほさはネタ次第w
Commented by kirin_1117 at 2017-10-07 23:01
最高です~!
ところどころ、コミカルに感じてしまうのはなぜでしょう。
jさまのお顔と紳士のお姿がちらつき、ニヤニヤしながら拝読させて頂きました*^^*
Commented by harurei at 2017-10-07 23:18
>きりんさ
ヒロインがじゃすさだからね・・・コミカルにもなるっしょ(;´∀`)
最高と言ってもらえて(無駄に)頑張った甲斐ある~!!
Commented by jasminetea-m at 2017-10-08 01:21
あのぅ・・。
某じゃすさってひょっとして・・。

大笑いして涙と鼻水が出て来ちゃった。
良い話だなぁ。
本気で昇華したよ。
ありがとう🎵
Commented by harurei at 2017-10-08 01:58
>じゃすさ
ひょっとして・・(ぉ
大笑いしてもらえて嬉しいw
昇華してよかた、悔いなく残りの旅を楽しんできてくだされ(^-^)
Commented by lily1406 at 2017-10-08 12:11
haruさんすごいなぁ
Jasさんの事 ホントよく見てるよね〜(^ ^)
何度も吹き出してしまったw
今までの小説の中で一番面白かったょ〜♪
最後のセリフ良いね〜♡ 実際haruさん誰かに言ってたりして(*^艸^)
jasさん素敵な人に出逢えると良いね〜♡
Commented by harurei at 2017-10-08 17:26
>ともさ
長年じゃす語録をメモしてきているからのう(;^_^A
それっぽい言葉遣いになってたら一安心~
わぉ、今までで一番!
なんでこんなの書いてるんだろう・・と思いながらも完成させてよかた(ぉ
わしはフランス人ではないので誰にも言えんわ(;´Д`)
じゃすさは日本人じゃない人と出会いそう感あるよねw
Commented by chocoyan2 at 2017-10-09 18:26
出遅れた(>.<)
読み始めた瞬間、これは!!!
って思いました(^.^)
天才だわ☆
もう、「どすっとグレー・・・」のところでは
思わず声出してしまい、旦那がどしたの?どしたの?って(^^;
今頃、jas姐さんは・・・♡
Commented by harurei at 2017-10-09 20:50
>ちょこさ
いつも天才と言ってもらえるのが嬉しい!実はわしもそう思う(ぉ
あはは、どすっとグレーの部分を説明するの難しいさねw
笑ってもらえて、無理やり入れ込んだ甲斐あった(^-^;
じゃすさは果たして・・・!
Commented by mon21mon at 2017-10-11 13:20
こんにちは。懐かし響きが、聴こえてしました。
セッッユンヌ、ベルカメラ。
妻とパリのクレーペリーに行った時に、隣のパリジャンが自分の迎えのパリジェンヌではなく、私のハッセルに気が向いているのに気がつきました。
何と声をかけて良いか分からず、そのまま食事をしました。モチロン、パリジェンヌは、嫉妬しきりです。もっと私のこと見なさいよー、位言ってたかも知れませんを
ヴーザイム、カメラ?(カメラ好きですか?まー、冠詞なくても通じるだろう)
位言えば良かったのでしょうけど、まだ仏検にもチャレンジする前でした。
出会いは、極力大事にしないといけませ
Commented by harurei at 2017-10-11 23:42
>monさ
わぁ、リアルパリでのシーン、4人とハッセル間で巡る感情が活き活きと伝わって面白い!
わしの妄想話とは大違いや(それはそうだ・・)
よいカメラは人を虜にするさね。もしその若いお二人(想像)に一緒にファインダーのぞいてもらっていたら、感動を共有してもらえるかも・・・なんて良い展開を考えてしまったり~
こんな謎の小説を見て、パリでの出来事を教えていただけて嬉しいな(^.^)
Commented by yu_r_ho at 2017-10-25 13:25
流れるようなテンポの良いストーリーにグイグイ引き込まれました♪
下田オフの時に「わたし、恋多き女なの」って言ってたけど、きっとこれが最後の恋ですね*^^*
来年のお泊りオフは「jasさんを訪ねてパリオフ」で決定だわぁ♡

jasさんが台風の中長野に行ったっていうアノ記事はきっと幻w
Commented by harurei at 2017-10-26 23:10
>ゆうほさ
そう言ってもらえると甲斐がある~
写真はいじらないけれど、文章は推敲の鬼なのでw
恋多き女言ってたよね!パリオフ楽しみだなぁ(ぉ
パリから彼と一緒に長野行った可能性も・・・
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