カテゴリ:小説( 12 )


2017年 10月 07日

恋するライカ9


C'est une belle camer.

何度反芻しただろう・・・
この歳になると、コンパクトミラーを覗かなくても自分の表情くらい感覚でわかる。
肌は張りを保っているし、血行も悪くない。
帽子の角度を定位置に。意を決して立ち上がるー


パリ滞在3日目。
エッフェル塔に程近いカフェに落ち着いた私は今後の予定を確認していた。
プラハ行き便の搭乗時間にはまだ余裕がある。
界隈を寄り道して撮影を続けても問題なさそうだ。

雨のパリはいい。
街ゆく男女が絵のように、浮かび霞んで溶けていく。
路肩に佇む Peugeot の濡れた躯体に映り込む街の色。

ふと、私の斜め前の席に男がついた。
肩に提げていたカメラをテーブルに置き、椅子を引いて長身を沈ませる。
紺青色のブルゾンに細身のスラックス。
望む横顔に深い人生を経てきた皺が刻まれている。

空いている店内。
わざわざ私の近くに座るなんて・・・少し気になるわね。

テーブルに置かれたカメラを見ると、レトロ調の蛇腹式カメラ。
遠目から見ても細部まで磨かれているのがわかり、愛着を感じさせる。
フィルムカメラかな。背面に液晶モニタがついていない。

私の手元にあるPEN-F。
きっと彼はこれを見て、私がカメラ好きだと気づいたのだ。
そして、自慢のカメラを見てもらいたくて私の前に位置取りしたのでは。

注文を終えて、スマートフォンを人差し指で手繰っている彼。
たどたどしさが愛らしい。私と近い世代かもしれない。

話しかけてみようかしら。
フィルムカメラは詳しくないけれど、カメラ全般のことならわかる。
もしかしたら彼と友達になって、他のカメラも見る?的な流れとなって
家に行って見せてもらい・・・勢い仲良くなって結婚したりして。

C'est une belle camera.(素敵なカメラですね)

声をかける言葉をiPhoneで翻訳してみた。
この一言が結婚につながるのだとしたら・・・

長い足を組み、せり立っている彼の背中。
優しくて穏やかで、でも頼ることができそうな山肌。
乙女のように鼓動が早鐘を鳴らしはじめた。
私のiPhone、彼の背中、蛇腹カメラ、繰り返し目線を流し込む。

話しかけよう。
私は意を決して立ち上がった。

「C'est une belle camer 」

声をかけると、彼の固い表情が一瞬で笑顔に塗り替えられた。
手を叩いて、自分が褒められたように大喜び。
私を席に呼び込んで、カメラについて熱く語り始めた。
神を鎮めるように彼の勢いを制して、ゆっくり話してほしいとお願いする。
彼は柔らかいウインクで応えて(粋だわ)私にもわかるように
丁寧に単語をつなげてくれた。

わかったことは、蛇腹カメラは古いフィルムカメラを改造したもので
デジタルカメラにした特注品ということ。
(ボディをくり抜いて中にデジタルの基板やセンサーを入れている)

そして彼は新旧含めて100台以上のカメラを所有しており(!)
家で大切に保管しているらしい。びっくり。

「家近いんだ。もし興味あったらカメラ見に来る?」

あまりにも妄想通りの展開で頬が緩む。信じられない。
見たいと伝えると、彼は会計を済ませて(私の分まで!)カフェを出た。

雨のパリ。傘を連ねて彼の大きな背中についていく。
墨を塗り重ねたような暗い空が連綿と続いている。

「こういう天候を日本語でなんて言うんだい?」

「どすっとグレーの空と言うわ」

「覚えておこう」

歩きながら、次第に自分の感情も不安で曇ってきた。
どんな家なのか。家族はいるのだろうか。あまりに軽率ではなかったか。

「あの、奥さんが困るんじゃないかしら・・・」

「あぁ、きっと嫉妬するだろうね」

素敵な人だもの。もちろんいるよね。私はうなだれた。

「・・・やっぱり行くの止めるわ」

「嫉妬するのは僕のカメラたちだよ」

彼は今度は瞬くようにウインクした。

「彼女のように愛情を注いで大事にしてきたから」

「じゃあ奥さんは?」

「いないよ」

それなら・・・

「最高のカメラを探す旅をしていた。でも旅は今日で終わり。なぜなら」

彼は足を止めて、振り向いて、私の目を射貫いて、ゆっくりと言った。

「カメラよりも美しい存在を・・・君を見つけたから」

本来なら今頃シャルル・ド・ゴール空港へ向かっていたはずなのに。
曇天のグルネル通り、濡れたマロニエの落葉、全てが明るく眩しい。
大好きなこの都市で、私の新しい人生がはじまろうとしていた。




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某じゃすさのブログ記事とコメントからヒントを得て小説にしたった。
もちろん許可は取っていない(ぉ

もし声をかけていたら・・・
そんな悔いがあったらこれで昇華するしか(できないか)
某ゆうほさがいつも感情移入してくれるので、たまには良い終わり方で(^.^)

今までの恋するライカシリーズや他の短編小説は「小説」カテゴリにて。
よかったらぜひm(__)mミテネ



by harurei | 2017-10-07 19:55 | 小説 | Comments(14)
2017年 06月 23日

恋するライカ8


凜々花の結婚宣言は美しい調べであった。
だけど僕は知っている。アイドル一人を愛することの苦しさを・・・


「何見てんの?」

背後から賀奈子が絡みついて、風呂上がりの火照った頬を寄せた。
しまった。耳からイヤホンを引き抜いてスマホを伏せたけれど遅かった。

「AKBじゃん」賀奈子はiPhoneを引ったくり、漆喰の壁に叩きつけた。
フローリングに滑る長方体を尻目に、彼女は「死ね」と言い落として寝室へ消えた。


工藤賀奈子はご当地アイドルグループ「HH365」の一員だった。

中でも一番人気。小柄で清楚な顔立ち、サイドポニーテール。
星の弾けるような笑顔の正統派美少女で、クッカーと呼ばれて愛されていた。

当時の僕は有名無名問わずあらゆるアイドルをチェックしていたので
時間の許す限り気になるライブに駆けつけていた。
学生の頃は自由な時間があったけれど、就職後もその情熱は変わらない。
土日を費やして顔を出し、給料は全てグッズに注いだ。

そんなアイドル中心の生活は僕の青春だった。
顔見知りの仲間も増えて、情報交換や場所取りを繰り返すうちに団結。
アイドルたちとの交流、オタクたちとの絆。
そんな環境に幸せを感じ得ていた日々。

しかし、HH365の撮影会で僕の人生は変わった―

フラッシュとシャッター音の連弾の中、ライカM2を構えてピントリングを
調整している僕に対して、あの工藤賀奈子が声を掛けてきたのだ。

「ライカ、わたしも好き!」

父親がライカを所有しており、よく撮られていたらしい。
人気アイドルが、まさかのライカ好き。
一眼レフが並ぶ中、ライカを小さく構える僕の姿は逆に目立っていたのかもしれない。
翌日、彼女のTwitterへ写真を送ってあげると
「お気に入り☆」そんなコメントが返ってきて有頂天になった。


「今度2人で話しませんか?」

TwitterにDMが届いた。送り主は工藤賀奈子。
コメントに返信することはあっても、アイドルが個人にDMすることはあり得ない。
何かの間違いか、オタク仲間の手の込んだいたずらだと疑った。
しかし、握手会で「DMしちゃった」と賀奈子にささやかれて本人の確信を得た。

その後の展開は夢のようだった。
数回やり取りした後、こっそり会い「一目惚れした」と告白を受けた。
ライカを構えている姿が忘れられなかったという。
こんな奇跡があっていいのだろうか。断る理由はない。
僕とアイドルとの交際がはじまり、秘密のデートを重ねた。
表向きは恋愛禁止のアイドル。もちろん誰にも言ってはいけない。
自然、オタク仲間たちと距離を置くようになったし
ライブに顔を出すこともなくなった。

そんな交際をはじめてから1年後。
僕は彼女の親に呼び出されて伝えられた。「娘が妊娠している」
そんな予感がしていた僕は結婚しますと即答。
彼女は事務所と揉めた末「体調不良」を掲げてHH365を脱退した。

ライカがきっかけで彼女は僕の人生の伴侶となったのだ。


壊れたiPhoneを拾いながら、その後の日々を思い返す。
そんな事由だから、オタク仲間に紹介も自慢することもできないし
地元を2人で歩くことも難しかった。見つかったら大変なことになる。
そして僕は他のアイドルのライブに行くことも、動画を見ることも禁止された。
また、彼女以外の写真を撮ることは許されなかった。
僕は彼女以外見てはいけなかった。彼女だけの生活となった。

ただアイドルたちの動向はこっそりスマホでチェックしていた。
先日ニュースで見た凜々花の結婚宣言は、どうしてもスピーチが聞きたくて
彼女の風呂タイムを狙って動画を見た。それがいけなかったのだ。

寝室の彼女に「ごめん」と言葉を置いて横に潜る。

これでよかったのだろうか。
生き甲斐だったオタク活動と仲間を損ない、写真の自由を失い・・・
僕は一人の元アイドルを得た。

僕が見ていたのは ”アイドル” という肩書で
彼女が陶酔したのは ”ライカ” というブランドだったのかもしれない。


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時事ネタ(;^_^A
もちろん今回も妄想100パーセントでお届け。

他の恋するライカシリーズと、短編小説は「小説」カテゴリから。
よかったらぜひm(__)m


by harurei | 2017-06-23 12:02 | 小説 | Comments(10)
2016年 11月 19日

恋するライカ7 (クロージングパーティー編)


入り口付近で談笑している女性の横を
赤べこのように会釈しながら通り過ぎる。

「はるさん」

呼ばれて足を止めると、細身の女性が近寄ってきた。
ピンクベージュのロールネックドレス。同色の小ぶりのバックを抱えている。
巻き髪から覗く笑みに見覚え・・・。「あきさん!」

「わからんかったの?」肩をすくめて一層にやける彼女。

「しょんないよ、私も最初気づかなかった」横からもう1人が顔を出す。
明るいグレーのフォーマルスーツ姿、胸のコサージュが印象的。

「さすがにチャイナドレスは着られんら」
「ぽてさん~」

ドレスアップした彼女たちは、空間自体を撫子色に染め上げる。
いつもと違う雰囲気に戸惑いながら尋ねた。

「みんな来てる?」
「うん、結構。アルさんとロンドンさんはもう飲んでるし」

奥を見ると、ギャラリーと休憩室を行き交う人の影。
意識を向ける。賑やかな喧噪が伝ってくる。

受付には 『クロージングパーティー21時~』 の貼り紙。
本日の受付係が座っている。ともさんとちょこさんだ。
透明な花瓶に浮く2輪の花のように、僕を見つけてやさしく揺れた。

「はるさんはるさん」

切迫した声に振り返る。ゆうほさんが神妙な顔で僕を呼んでいる。

「どうしたの?」
「あっち系の恐い方がいるんです・・・」

怯えている彼女。
休憩室を見てほしいと小声で伝えて、目で僕を促す。

あっち系・・・ヤクザ?
いちゃもんをつけて、金品を要求しようと企んでいるのだろうか。

おそるおそる休憩室を見る。
すぐにわかった。

スキンヘッドにサングラス。
黒スーツに白ネクタイ。
異様な雰囲気を纏った細身の男が立っている。

言うなれば・・・インテリヤクザ。
どこかで見た事ある。
あぁ、そうだ。映画NANAのヤスにそっくり。

「ハニーさんじゃん」
「は?」

あんぐりしているゆうほさんを尻目に
僕は片手を挙げて彼に近づき、あの日以来の再会を喜びあった。

「箱さんはまだ来てないなぁ」

周りを見て僕は独り言つ。
パーティーの余興として 『RDのPPAP』 を打ち合わせしたかったのに。
来なかったら、jinさんとタイガーさんにパーフェクトヒューマンしてもらうしかない。


もうすぐ21時。
写真展はこの日で終わる。

この20日間の手ごたえはエアではない―
そんな確信と共に、僕はクロージングパーティーの雛壇に向かった。


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苦情はパーティー会場で受け付けまし(^-^;
ではでは20日の21時から、よろしくね!w



by harurei | 2016-11-19 01:16 | 小説 | Comments(17)
2016年 06月 29日

イイネP


いい写真だなぁ。
紫陽花、横構図の写真が4枚連なっている。
ガク一枚一枚の繊細な描写。

スクロールする。
近況が簡単に綴られている。

このブログはほんといい。
写真も好きだし、何より記事を構成する雰囲気が優しい。
色合い、配置、フォント。
それぞれの要素をバランスよく封じ込めている。

スクロールする。記事はここまで。
いつものようにカーソルをイイネボタンの上に。クリック。
気の抜けた音が鳴り、吹き出し型のポップアップが浮いた。
     

 「イイネPが足りません 今すぐここをクリック」


イイネP?

どういうことだろう。
眉をひそめながら「ここ」 を押してみる。
記事の上に新しいウィンドウが建立された。


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写真系ブロガーに支持されたエキサイトブログ。
しかしTwitterやInstagram等のSNSの波にさらわれて失速。
広告収入は頭打ち。有料会員は減る一方。

そこで導入されたのがイイネ課金制らしい。

1回イイネするために実質100円かかる。
気軽にイイネできない。
しかし良い記事にはイイネをしたい。

結果・・・イイネの価値が飛躍的に高まった。
イイネ数は重みのあるものとなったし
単純なイイネ返しはなくなった。


イイネ課金化の経緯を調べた僕は
モニタの前で静かに激昂した。なんて改悪なのだろうか。

思わずコメント欄に打ち込んだ。

 とても素敵な紫陽花です。イイネしたのですが
 課金制に変わっていたのでできませんでした。
 以前に戻してほしいですね。

コメント送信ボタンを押す。
気の抜けた音が鳴り、吹き出し型のポップアップが浮いた。


 「コメントPが足りません 今すぐここをクリック」




by harurei | 2016-06-29 00:13 | 小説 | Comments(13)
2016年 02月 14日

恋するライカ6


ラジオから流れるチョコレイトディスコ。
ワープのような雨のエフェクト。
ワイパーを早めて視界を確保。
メトロノーム。リズムが重なる。

(そっか、今日はバレンタイン)

忙しい一日だった。
仕事を早退して組内のお通夜に参加。
そのあと職場に舞い戻り、残務を片付ける。

帰宅の途についたとき、外は大雨。
春の嵐は収まる気配もない。
神経を四輪にのせて、車をゆっくり歩ませる。

ときめいている女の子♪

職場のバレンタインは2年前から廃止。
男性ばかりの職場でチョコを分配する意義もなく。

気にしないフリ男の子♪

帰ったら現像しよう。
未現像のモノクロフィルムが1本ある。

チョコレイトディスコが終わるころ帰宅。
もう春も近いのだろう。

フィルムを取り出す。
現像、停止、定着、水洗―
蕎麦切色に透けたフィルムを吊す。

ネガを一枚ずつ確認。
丁寧に美しく定着されていれば大丈夫。
薄い場合はブレか露光不足。

ふと、最後のコマに目を留める。
記憶にない風景。

乾燥させて、スキャナに取り込んで
改めて先程の1コマを確認する。

黒鳶色の箱とコーヒーカップが写っている。
箱には『HACHEZ』の文字。
ネットで調べると、ドイツの高級チョコレートのようだ。

こんな写真は撮った記憶がない。
いったい誰が・・・?

ふと視線を感じて横を向く。
ライカがいつも通り、机の上で佇んでいる。




by harurei | 2016-02-14 21:31 | 小説 | Comments(10)
2015年 12月 23日

恋するライカ5


池袋駅東口いけふくろう像前。
地下通路を抜ける人の濁流はここで勢いを失う。
待ち合わせをする人々が藻が絡まるように場の流れを堰き止めていく。

週末、池袋の夜。
僕はここで、ハニーさんと待ち合わせをしていた。


僕がハニーさんとブログ友になったのは半年以上前のこと。
"ブログを楽しみたいサークル"がきっかけで交流がはじまった。
彼女がブログに投影する表現は乙女的で、ときに優しく、ときに繊細。
その独特の文調が気になったし、後ろ姿にも惹かれるものがあり
いつかお会いしてみたいと思っていた。

そもそも僕はオフ(ネットで知り合って会うこと)に抵抗がない。
ネットはリアルの一部。いい雰囲気の人は実態も変わらないのだ。

それに僕がハニーさんに会いたいと思ったのは
彼女の熱いコメントの数々に誘因されたのも大きい。

「マイスイートエンジェルハルさぁぁぁん」
「更新がなくて寂しかったなぁ」
「私で良ければモデルになるよぉ? w」

鍵コメでもなく、堂々と伝えてくるその果てしない度胸と自信。
一方でゴム風船のように起伏する感情。(たまに破れそう)
何かこの人普通じゃない。気になる。確かめたい・・・

そこで、ハニーさんに思いきって
「ライカで後ろ姿を撮らせてほしい」
と声を掛けたところ快く応じてくれて
日程の調整を経て、今日会うことになったのだった。


待ち合わせ10分前。
いけふくろう前は、相変わらずの人の渦。
スマホを見るとLINEに通知が届いていた。

ハニーさんからだ。


---------------------------------------

ハルさぁぁぁん💓
いけふくろう前に着いたよぉ

どこにいるのかなぁぁ(^_^*)a
カメラ持っている人捜してみるね🎵🌟

わたしは・・

モチロン ⁉️
ポニテにしてるよぉ〜 ☆(-_^)


but・・。


嫌われたらドォーしよォ


ネェ〜〜
ハルさぁぁん💝ヾ(^ ^*)ノ💕

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こんばんは
自分も到着しています!
いけふくろう像の真横です。
肩からカメラを提げて立っています(^o^)

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LINEを送り返して間もなく、背後から肩をやさしく叩かれた。
ハニーさんかな?僕は振り向いて笑顔をつくる。

そこにいたのは男だった。

スキンヘッドにサングラス。
黒スーツに白ネクタイ。
異様な雰囲気を纏った細身の男が立っていた。

言うなれば・・・インテリヤクザ。
何かどこかで見た事ある。
あぁ、そうだ。映画NANAのヤスにそっくり。

「えっと」

言葉を失う僕に、彼は深いバリトンの効いた声で言った。

「ハニーです」
「ハ・・・」

彼はサングラスを煌めかせて、舐めるように僕を見た。
そしてゆっくりとした動作で懐に手を入れる。

反射的に身構える僕。
彼は懐から何かを取り出して・・・
ゆっくりと僕の前にその手を向けた。

小さな豆しばのストラップ。
手のひらの上で豆しばが、つぶらな瞳でこちらを見ている。

「これ、お土産。ハニしばと名付けてくれたから」
「・・・あ、ありがとう」

彼は口元をにやりとさせて、満足そうにうなずいた。


ハニーさん・・・
いつも可愛い口調だったし、女子らしいお弁当つくっていたし
何をどう考えても女性だと思い込んでいた。

それがまさかのスキンヘッド男・・・
やっぱり、人って会ってみないとわからない。


いけふくろう像を離れ、一緒に東口地上に向かう。
人の濁流は収まらない。

僕は数歩下がり、ライカを構えて
ファインダー越しに、スキンヘッドの後ろ姿を捉えた。

ポニテとは何だったのか―
撮りながら、僕は夢でも見ているような錯覚に陥っていた。




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妄想小説に登場したい!
ハニーさの強い要望に応えて書いたった~
あぁ、全国のハニーファンに刺されそう・・・

それどころか本人にキレられそう(無許可)
許してもらえますようにm(__)m

※この物語はフィクションであり、全て妄想です(^-^;



by harurei | 2015-12-23 22:57 | 小説 | Comments(13)
2015年 12月 15日

恋するライカ4 (18禁)











あなたは18歳以上ですか?

 YES  /  NO




























L字型の席に案内された。
使い捨ておしぼりを剥いて
渇いた両手を湿らせる。

叩きつけるようなトランスミュージック。
高速回転するミラーボール。
かまいたちのような光の刃が暗い店内に傷を連ねていく。
お酒と煙草と香水の匂い。
無闇に早まる鼓動。

「20番にレイカさん、21番にナミさんお願いします」
早口のアナウンス。
(声が田中リングアナに似ている)
そう思いながら僕は女の子が来るのを待っている。

ここはセクシーパブ "越後湯沢屋"
気づいたら繁華街のこのお店に入店。
人肌が恋しくなっていたのだ。

セクシーパブとキャバクラの違い ―

一言で言えば、触れるか触れないかである。
横に女の子がついて会話を楽しむのは一緒。
ただセクシーパブには"ハッスルタイム"というのがあり
女の子が上着を脱いで膝の上に乗ってくれる。
そのときだけは胸を触ることができるのだ。

「こんばんわ♪」

10分程待って現れた女性。20代半ば位だろうか。
スレートグレイのランジェリー姿。
ウェーブがかったブロンドのロングヘアー。
純粋で素朴な表情。穏やかな双眸。
ランジェリーから零れる胸元に、僕の目線は釘付けになる。
お、大きい・・

薄暗い店内、チェリーピンクの照明。
白磁のようにきれいな肌、深い谷間。
吸い込まれている僕の目を
首を横にしてのぞき込む彼女「こんばんわ!」

ああっと・・・今更平静を装ってうなずく僕。
彼女は肩をすくめて、SAVOYのピンク色のポーチから名刺を取り出した。
ギャル文字で 空(そら) と書かれている。
「空(そら)です、よろしくね♪」
「よろしく・・・」
返事をしながらも僕の目線はやっぱり胸に。
「また見てる」彼女はまんざらでもなさそうに笑った。
「あまりにも大きくて・・・何カップなんですか?」
「ワールドカップよ」
「ええっ!」
意外な答えが結構ツボ。
ハッスルタイムが来たらこの胸に触ることができるのだ。

他愛ない話をしていると、やおら音楽のテンポが上がった。
「さあお待ちかねのハッスルタイムです」
田中リングアナの早口アナウンス。きたー
「それじゃあ・・・上乗るね」
妖艶に微笑んで彼女は腰を浮かせた。そのときだった。

『キュル、ジー、チャッ。キュル、ジー、チャッ。』

僕の携帯から鳴り出す着信音。
カメラのフィルム巻き上げとシャッターを押す音。
僕はその耳障りが好きで、録音して着メロにしていた。
やかましい店内でも、心地よく耳に伝わるリズムの反芻。
さすがに電話に出るわけにはいかないので、通話終了ボタンを押す。

「それって・・・ライカの巻き上げ音?」
彼女は腰を浮かせた姿勢のまま僕の顔を見た。

「えっ!わかるんですか?」
「M2・・・だよね?」
「そうです!」
「わたしも持ってるの♪」

セクシーパブで付いた女性がまさかのM2使い。

「聞いてよ、この前シャッタースピードダイヤルが取れちゃって」
「そんなことあるんすか」

彼女は自分の席に腰を戻して興奮ぎみに語りだした。
販売店で新しいダイヤルを取り付けてもらって事なきを得たとか
M3が礼賛されているけれど、私はM2が最強だと思うとか
最近のフィルムはあまりにも高すぎるとか。
うんうんと頷いていたが、よく考えたら今ハッスルタイム・・・

やがて音楽のテンポが元に戻り・・・

「ハッスルタイム終了です!」

「あ、ごめんなさい。ついついライカ話を」
口に手を当てて謝る彼女に僕は首を横に振った。
「いや、僕も楽しかったよ・・・」
なんという紳士。

「また遊びにきてくださいね」
「はい」
指名が入ったらしく挨拶もそこそこに席を離れる彼女。
延長の案内をやんわり断り・・・僕は店を出た。

次は指名するんだ ―
固い決意を胸に僕は夜の繁華街を後にした・・・



---------------------------------------------

嫁さんも見ているこのブログ。
妄想だから問題ない、はず(^-^;
それではまた、次の妄想で!(写真はどうした)



by harurei | 2015-12-15 00:33 | 小説 | Comments(8)
2015年 12月 12日

恋するライカ 3


パーキングブロックに沈む後輪を、みぞおちに感じて車を停める。
ウィンドを上げる。名刺入れを胸に、封筒片手に。
ルームミラーで鼻毛確認。大丈夫。
顔の脇にアイビーグリーンの自転車が映る。
彼女はいるようだ。車を降りる。

2回ノックして会社名を告げると、奥からどうぞと丁寧な声。
「失礼します」来客用スリッパに体を浮かせて事務所の中へ。
カウンタの向こうで、事務の女性がモニタから半身ずらしてこちらを見つめている。
「請求書をお持ちしました。遅れてすいません」
彼女は笑顔で立ち上がる。「はい、確認しますね」
封筒を受け取り、その場で中身を広げて敷いて
フロストピンクのDr.Gripで確認箇所めがけて用紙を点々と叩いていく。

「寒くなってきたから自転車は大変でしょう」

チェックが終わるタイミングを見計らって僕は話しかけた。
彼女の愛車がアイビーグリーンの自転車だということを僕は知っている。
通勤中の姿を見かけたことがあるのだ。

「そうなんです!」彼女は手を止めて、上目で僕を向いた。
「もうイヤマフ必須ですね~昨日から手袋もしています」

紺色のカーディガンが細身の彼女を一層儚げに感じさせる。
一見冷たい表情の彼女が話し出すと柔らかな笑顔に溶け出す様がとても可愛らしい。

早めに郵送すれば済む請求書を、締め切り間際に慌てて持ってきた体を装うのは
彼女と話すきっかけを求めての算段だった。
用件だけで帰っては進展がないので、何か話題を見つけて話すようにしている。
幸い今日事務所にいるのは彼女だけ。
多少世間話をしていても他の社員に妙な顔をされる心配はなかった。

「あっ!」請求書に視線を戻した彼女が声をとがらせた「間違っています」
一部の表記が正式名称ではなく、略称で書かれているため
処理が通らないかもしれないという。

「書き直してきます。すいません」
「こちらこそ、ちゃんと通達できず申し訳ありません。正式名称の載っている書類を
印刷しますから」

モニタの前に戻る彼女。マウスを捌き、キーボードを弾く。

「あれ」今度は困惑した声。「補足を書き加えておこうとしたら
文字入力がおかしくなってしまって…なんでだろう」
何度かキーを打ち直してみるも彼女の表情は浮かない。

「ちょっと見てもいいですか」
彼女が了解してくれたので僕は失礼してモニタの前に移動した。

「かな入力になってますね」
「あぁー」

ALT+[カタカナひらがな]キーでローマ字とかな入力を切り替えられることを説明。
「何かの拍子で切り替えてしまったのかもしれません」
彼女は表情を緩ませて申し訳なさそうにお礼をのべた。
僕は彼女の役に立てたことが嬉しくて、立場を忘れて相好を崩しそうになる。

モニターには付箋紙が所狭しと貼り付けられていた。
太文字で記号が書いてあったり、ゆがんだウサギの絵が居たり面白い。
ふと、その中に気になる文字を見つけて目を留めた。

ずまーる50 ¥47,000 
えるまー50 ¥68,000
ずみくろん35 ¥280,000

「あっ」彼女は恥ずかしそうに手を左右に振った。
「気にしないでください。趣味のメモなんで」

「ライカのレンズですよね?」
「えっ」
「僕もライカ使っています」
「ほんとですか!」

彼女は同士を得たとばかりに笑顔になった。
「手が空いているときに価格をチェックしているんです。」
所長には内緒で、と言って彼女は小さく舌を出す「古いレンズですけどね」

取引先の事務員さんが・・・まさかのライカレンズ好き。

「落札で競っているときに来客があると、もー!って思うんです」

その後は他の社員が帰社するまでレンズ話で盛り上がり
写真を見せ合う約束まで取り付けた。

なんて偶然だろう。
心が大観の屏風のように輝き、さんざめく。

淡い期待を胸に、僕は浮くような気持ちで事務所を後にした。



by harurei | 2015-12-12 00:51 | 小説 | Comments(10)
2015年 12月 11日

恋するライカ 2


いらっしゃいませ
ベビーピンクの照明があやしくゆらめく店内。
呼び込みのギャル男くんが明かりの向こうへ手を向ける。

席に着いて、おしぼり、灰皿。
「よろしくお願いしまぁす」
隣に来たのはショートツインテールの女の子。
眉まで隠れた前髪。くっきりとしたアイライン。
きゃりーに似ているかもしれない。
19歳くらいだろうか。

水割りを頼むと彼女は笑顔でうなずいて
まるで演舞のような所作でグラスを操った。
「どこかお店寄ってきたの?」グラスを置いて、彼女は切り出した。
「一件飲んできて、その後呼び込みに引っかかってね」
きゃりーは興味なさそうに笑った「そなんだ」

呼び込みのギャル男くんに向けて乾杯をあげた後
他愛もない話をはじめる。すっかり寒くなってきたね云々。
彼女はやはり19歳だという。
何を話題にしたらいいのかわからない。

ふとテーブルに置かれた彼女のスマホを見てオレは声をあげた。

「その待ち受け・・・」

液晶画面に、渋い錫色に輝くカメラの姿が写っている。
彼女は誇らしげに画面を指さした「カッコいいカメラでしょ?」
見覚えのある形、唯一無二のデザイン。

「ライカだ」

「えっ!わかるの?」
「オレも同じカメラ使っているからね」
「マジで」

彼女は彼氏(?)からこのライカをプレゼントされたのだが
別れた後もカッコいいから手元に置いていると明かした。
使い方がわからないというので、今度教えてあげると言うと
喜んで連絡先を教えてくれた。
まどろんだ空気から一転して盛り上がる二人。

「ライカ使っている人と会うなんて・・・興奮して喉渇いちゃった」
きゃりーは大げさに喉のあたりをさすった「飲み物頼んで、イイ?」

うなずくと彼女はオレの腕に絡みついてお礼を言った―



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なんというあり得なさ・・・
今回も妄想100%でw



by harurei | 2015-12-11 00:23 | 小説 | Comments(7)
2015年 12月 09日

恋するライカ 1


寄りかかるように、松葉色の扉に身体を当ててゆっくりと押し込む。
もれてくる薄闇と珈琲の香り。
雰囲気に重なるように、中へ。

カフェ"Une infirmiere du chat du chat"に通うようになって久しい。
コルク色を基調とした調度品と穏やかなBGM。窓から差し入る光の角度。
カウンタには無表情で白髪の店主。
細身でいつも凜としている(おそらく)夫人。
笑顔の絶えない給仕の(ちょっと胸の大きい)女の子。
このカフェを構成する全てが心地よく、長居をしてしまうのが常だった。

文庫本片手に訪れたのだが、今日は思いのほか混み合っていた。
紅葉目当ての客が訪れているのだろう。
僕の定位置(ゆったりソファーの一人席)は奪われていた。
やむなく小窓に面して配された横並びのカウンターに小さく座る。

いつも通りキリマンジャロを注文。
文庫本のブックカバーの手触りと
傾いた栞の刺さり方を見て物語の続きを思い出す。

そうして僕の時間がはじまる。
置かれたオールドノリタケの白磁も
縁取りの金彩も、いつの間にか僕の一部となって
珈琲の香りと共にまどろんでいく・・・

「失礼します」

不意に、斜め後ろから声が降ってきた。
振り返るとおとなしそうな細身の女性が、僕の横の椅子を引いている。
「お隣、失礼します」
混み合っている店内、空いているのはこのカウンターの
僕の横だけだった。

「どうぞ」反射的に答えて、必要ないけれど椅子をずらして意志を示す。
簡単な会釈を投げて、彼女は腰をおとした。
穏やかな物腰と落ち着いた服装。
若いのかもしれないが年上に見られるタイプだと思う。

注文を済ますと、彼女は馬車柄のハンドバックから
黒い物体を取り出してコルク色のカウンターに乗せた。

見覚えのある形、存在感。
僕は目だけ動かしてその物体をのぞき見る。

カメラだ。
ライカ・・・ライカ M6J!?
1994年に1,640台だけ製造された限定モデルである。
付いているレンズは・・・ノクティルックス。

彼女は長い指を細やかに這わせて、裏蓋を取り外した。
そのまま左手に忍ばせていたフィルムのパトローネをあてがって
手慣れた様子で装填をはじめる。

「いいカメラですね」

女性は手を止めて僕を見た。
僕もライカを使っていると伝えると、彼女は表情を緩めた。
聞くと、彼女も長年ライカにハマっており常に持ち歩いているのだという。

カフェで隣り合った女性がまさかのライカ使い・・・

ライカ談義に花が咲く。
ふと小窓から庭園を見ると、ライトアップの照明が静かに灯り
宝石のような光彩が、恋の序章を夕闇に告げていた―



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過去ブログで書いていた妄想小説を、ライカverとしてアレンジw
ライカではじまる出会いの妄想(事実ゼロ)を書いていくさね(ぉ



by harurei | 2015-12-09 01:08 | 小説 | Comments(9)