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2015年 12月 09日

恋するライカ 1


寄りかかるように、松葉色の扉に身体を当ててゆっくりと押し込む。
もれてくる薄闇と珈琲の香り。
雰囲気に重なるように、中へ。

カフェ"Une infirmiere du chat du chat"に通うようになって久しい。
コルク色を基調とした調度品と穏やかなBGM。窓から差し入る光の角度。
カウンタには無表情で白髪の店主。
細身でいつも凜としている(おそらく)夫人。
笑顔の絶えない給仕の(ちょっと胸の大きい)女の子。
このカフェを構成する全てが心地よく、長居をしてしまうのが常だった。

文庫本片手に訪れたのだが、今日は思いのほか混み合っていた。
紅葉目当ての客が訪れているのだろう。
僕の定位置(ゆったりソファーの一人席)は奪われていた。
やむなく小窓に面して配された横並びのカウンターに小さく座る。

いつも通りキリマンジャロを注文。
文庫本のブックカバーの手触りと
傾いた栞の刺さり方を見て物語の続きを思い出す。

そうして僕の時間がはじまる。
置かれたオールドノリタケの白磁も
縁取りの金彩も、いつの間にか僕の一部となって
珈琲の香りと共にまどろんでいく・・・

「失礼します」

不意に、斜め後ろから声が降ってきた。
振り返るとおとなしそうな細身の女性が、僕の横の椅子を引いている。
「お隣、失礼します」
混み合っている店内、空いているのはこのカウンターの
僕の横だけだった。

「どうぞ」反射的に答えて、必要ないけれど椅子をずらして意志を示す。
簡単な会釈を投げて、彼女は腰をおとした。
穏やかな物腰と落ち着いた服装。
若いのかもしれないが年上に見られるタイプだと思う。

注文を済ますと、彼女は馬車柄のハンドバックから
黒い物体を取り出してコルク色のカウンターに乗せた。

見覚えのある形、存在感。
僕は目だけ動かしてその物体をのぞき見る。

カメラだ。
ライカ・・・ライカ M6J
1994年に1,640台だけ製造された限定モデルである。
付いているレンズは・・・ノクティルックス。

彼女は長い指を細やかに這わせて、裏蓋を取り外した。
そのまま左手に忍ばせていたフィルムのパトローネをあてがって
手慣れた様子で装填をはじめる。

「そのカメラ・・・」

女性は手を止めて僕を見た。
僕もライカを使っていると伝えると、彼女は表情を緩めた。
聞くと、彼女も長年ライカにハマっており常に持ち歩いているのだという。

カフェで隣り合った女性がライカ使い(マニアックな)
ライカ談義に花が咲く。
ふと小窓から庭園を見ると、ライトアップの照明が灯り
宝石のような光彩が、恋の序章を夕闇に告げていた―



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過去ブログで書いていた妄想小説を、ライカverとしてアレンジ。
ライカではじまる出会いの妄想(事実ゼロ)を書いていくさね。



by harurei | 2015-12-09 01:08 | 小説 | Comments(9)
Commented by haneymoon at 2015-12-09 01:32
🎀 ハルさぁぁぁん😊💕

ウワァーーッ(^ ^*)💝
やっぱりハルさんの描く
妄想小説は素敵だぁぁーーッ😊💞

なんか色気を感じて
ドキドキしてしまうよぉ〜っ😊💖

私も今ねっ💓
恋しているからね〜😊💕💕

ハルさんのよぉ〜な
とっても素敵な人
なんだぁぁ〜っ💝(^ ^*)🎀

だから恋するって
タイトルに
敏感に反応してしまったァァ〜 w(^ ^*)a💕

続編 楽しみにしてるねっ🌟✨✨

✨妄想小説家✨
ハルさぁぁぁん🎀(*^ー^)ノ💞
Commented by lily1406 at 2015-12-09 21:37
haruさん こんばんは~(^^)/
haruさんの小説待ってました~!!!
タイトルがまずいい!
ライカ好きとしてはかなり食いつきます♪
情景描写がやっぱり上手いよな~。色や香りその場所の空気も感じて物語に惹きこまれるw
(ちょっと胸の大きい)でプッと笑ってしまった~( 艸`*) ププッ
ふむふむフィルムを入れる時はカフェでと。。。
私も素敵な人に声をかけてもらえるようにこの小説をバイブルにします(ぉ
続編楽しみにしてるよ~ヽ(^o^)丿
Commented by jasminetea-m at 2015-12-09 21:39
半分現実のような・・・、半分夢の中の出来事のような
素敵なお話し。
主人公はやっぱりharureiさんを想像しちゃう。
こんな出会い良いなあ・・・。
私も憧れちゃいます。
Commented by harurei at 2015-12-09 21:59
>ハニーさ
素敵と感じてもらえて嬉しか(^o^)
おおっ、恋いいね!応援するする!!
というより、ハニーさは恋していないときがなさそう(ぉ
読み切りだけど、いろんなシチュエーションで書いていきたいな。

>ともさ
お待たせしたった、タイトルなんかいいよね~
描写を褒めてもらえて(^o^)ウレシイ
男子目線らしいっしょ(ぉ
ぜひカフェでやってみて!
効果なくても知らないw

>じゃすみんさ
現実っぽくを目指して書いているので嬉しいなぁ(^o^)
わしのようでわしではないのさ~
あり得ない設定でも小説上はいくらでも(ぉ
Commented by chocoyan2 at 2015-12-09 23:07
ヤバすぎる!
本気で惹き込まれるよ!
続きがとっても待ち遠しい〜♪
Commented by harurei at 2015-12-10 00:46
>ちょこさ
よっしゃー!
連載ものではないんだけど、似たような短編を続けていくさね(^_^)/
Commented by aki-carvinglover at 2015-12-10 02:44
えっと、昼間見て一回閉じたんだけど(*^^*)
そろそろコメント書こうかな〜。

やっぱり描写が流石です。
もうね、冒頭からマジ読みしました。
ミニブックでも作ったら。
表紙と挿絵は勿論haruさんが撮るんだよ〜。
次回作楽しみにしています。
Commented by photo_coto at 2015-12-10 22:42
こんばんは(^^)
描写がとても素敵ですねー♪スーッと引き込まれるような感じ。
次回も楽しみにしてますね☆


Commented by harurei at 2015-12-10 23:19
>あきさ
そろそろww
ありがとう!マジ読み嬉しすぎる・・
あはは、ミニブック大げさだぁ(^-^;
ブログに載せるくらいがちょうどいいさねw

>きっこさ
引き込まれてもらえてよかった!
また読んでくだされ(^_^)/
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