2015年 12月 12日

恋するライカ 3


パーキングブロックに沈む後輪を、みぞおちに感じて車を停める。
ウィンドを上げる。名刺入れを胸に、封筒片手に。
ルームミラーで鼻毛確認。大丈夫。
顔の脇にアイビーグリーンの自転車が映る。
彼女はいるようだ。車を降りる。

2回ノックして会社名を告げると、奥からどうぞと丁寧な声。
「失礼します」来客用スリッパに体を浮かせて事務所の中へ。
カウンタの向こうで、事務の女性がモニタから半身ずらしてこちらを見つめている。
「請求書をお持ちしました。遅れてすいません」
彼女は笑顔で立ち上がる。「はい、確認しますね」
封筒を受け取り、その場で中身を広げて敷いて
フロストピンクのDr.Gripで確認箇所めがけて用紙を点々と叩いていく。

「寒くなってきたから自転車は大変でしょう」

チェックが終わるタイミングを見計らって僕は話しかけた。
彼女の愛車がアイビーグリーンの自転車だということを僕は知っている。
通勤中の姿を見かけたことがあるのだ。

「そうなんです!」彼女は手を止めて、上目で僕を向いた。
「もうイヤマフ必須ですね~昨日から手袋もしています」

紺色のカーディガンが細身の彼女を一層儚げに感じさせる。
一見冷たい表情の彼女が話し出すと柔らかな笑顔に溶け出す様がとても可愛らしい。

早めに郵送すれば済む請求書を、締め切り間際に慌てて持ってきた体を装うのは
彼女と話すきっかけを求めての算段だった。
用件だけで帰っては進展がないので、何か話題を見つけて話すようにしている。
幸い今日事務所にいるのは彼女だけ。
多少世間話をしていても他の社員に妙な顔をされる心配はなかった。

「あっ!」請求書に視線を戻した彼女が声をとがらせた「間違っています」
一部の表記が正式名称ではなく、略称で書かれているため
処理が通らないかもしれないという。

「書き直してきます。すいません」
「こちらこそ、ちゃんと通達できず申し訳ありません。正式名称の載っている書類を
印刷しますから」

モニタの前に戻る彼女。マウスを捌き、キーボードを弾く。

「あれ」今度は困惑した声。「補足を書き加えておこうとしたら
文字入力がおかしくなってしまって…なんでだろう」
何度かキーを打ち直してみるも彼女の表情は浮かない。

「ちょっと見てもいいですか」
彼女が了解してくれたので僕は失礼してモニタの前に移動した。

「かな入力になってますね」
「あぁー」

ALT+[カタカナひらがな]キーでローマ字とかな入力を切り替えられることを説明。
「何かの拍子で切り替えてしまったのかもしれません」
彼女は表情を緩ませて申し訳なさそうにお礼をのべた。
僕は彼女の役に立てたことが嬉しくて、立場を忘れて相好を崩しそうになる。

モニターには付箋紙が所狭しと貼り付けられていた。
太文字で記号が書いてあったり、ゆがんだウサギの絵が居たり面白い。
ふと、その中に気になる文字を見つけて目を留めた。

ずまーる50 ¥47,000 
えるまー50 ¥68,000
ずみくろん35 ¥280,000

「あっ」彼女は恥ずかしそうに手を左右に振った。
「気にしないでください。趣味のメモなんで」

「ライカのレンズですよね?」
「えっ」
「僕もライカ使っています」
「ほんとですか!」

彼女は同士を得たとばかりに笑顔になった。
「手が空いているときに価格をチェックしているんです。」
所長には内緒で、と言って彼女は小さく舌を出す「古いレンズですけどね」

取引先の事務員さんが・・・まさかのライカレンズ好き。

「落札で競っているときに来客があると、もー!って思うんです」

その後は他の社員が帰社するまでレンズ話で盛り上がり
写真を見せ合う約束まで取り付けた。

なんて偶然だろう。
心が大観の屏風のように輝き、さんざめく。

淡い期待を胸に、僕は浮くような気持ちで事務所を後にした。



by harurei | 2015-12-12 00:51 | 小説 | Comments(10)
Commented by haneymoon at 2015-12-12 01:30

?? 妄想小説家ハル先生????

今回のは・・??✨
星二つだぁぁ⭐️⭐️
なんかリアルにありそぉ〜な
お話しだったからねっ(^ ^*)??✨

それにねっ????
私も自転車通勤なのだぁぁ〜????

イヤマフ??
ウケターーッ??(*^ー^)ノ??

48とか・・??( ̄。 ̄ノ)??ヒドイッ??

ポニテの回にしてーーッ✨(-_^*)v??
Commented by harurei at 2015-12-12 11:07
>ハニーさ
星増えたw
共感できるかは重要さね~
ハニーさをネタに書いたら・・・
相当面白いギャク小説になる予感しかない(ぉ
Commented by aki-carvinglover at 2015-12-12 13:57
haruさんの妄想小説のせいで⁈変な夢見たよ。
poteさんのブログに文字だらけの小説がアップされてたり、
その後会った飲酒会で青島ビール飲んでたかと思ったら食べ物はスペイン系ででもその会合でharuさんに小説書かないならサークルメンバーから抜けてくれって言われたり。

なんだこの支離滅裂な夢!って(*^^*)
まぁ、そのくらい妄想小説という分野に侵略されてます。
Commented by pote-sala at 2015-12-12 16:07
うっひゃー。
私も小説書くべぇか。
妄想小説。イケメン100人は必要だな。
Commented by lily1406 at 2015-12-12 22:18
haruさん こんばんは~(^^)/
とってもいい感じな小説♪
ちょうどクリスマスソングを聴きながら読んだから余計素敵に感じたのかな(笑
私も欲しいレンズの名前を書いてペタペタPCに貼っておこう~(^o^)♪
Commented by harurei at 2015-12-13 10:12
>あきさ
小説書かないならサークルメンバーから抜けてくれww
おそろしい夢だのう・・・なんか(^-^;ゴメン
さらに侵食を進めて、もっと変な夢を見てもらわな(ぉ

>ぽてさ
書けそうだしw
待ってる!

>ともさ
いい感じならよかったぁ
クリスマスソング効果素晴らしい(^o^)
ぜひやってみてw
Commented by chocoyan2 at 2015-12-14 08:51
付箋は使っていないですけど
チェックレンズはすぐにリンクします( ´艸`)
妄想小説ヤバイ、ハマりそう・・・いや既にハマってる♪
Commented by harurei at 2015-12-14 22:48
>ちょこさ
ハマってくれて嬉しい!
リンク見られたらすぐにちょこさのレンズマニア度合いがバレそうさねw
妄想なら何でも書けていいよ(ぉ
Commented by photo_coto at 2015-12-16 12:33
順番を間違えて問題作(ぉ
から見てしまったので何だろう、この安心して見れる心境(笑)お昼休みでも読めました( ´艸`)w
目の前にはPCと貼ってる付箋…
妄想と言いながらも臨場感あふれる文章を読んでると実際にありそうに思えてきました(笑)
ライカ付箋貼っとこうかな〜wあ、確かカメラ好きいたな…( ̄∀ ̄)(笑)
あ、妄想が移ってしまいました(笑)
Commented by harurei at 2015-12-16 23:32
>きっこさ
こらぁw
カフェ→キャバクラ→事務所→セクシーパブと
交互に載せることでバランスを取っていたのに(ぉ
臨場感あると感じてもらえてよかった~
お、いいね!レンズ付箋つけるしかw
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